銀行からフィンテックへの転職戦略|有利な職種と年収・失敗しないポイント
この記事の要約
銀行業界を取り巻く環境が大きく変化する中、「このまま銀行にいてよいのか」と将来に不安を感じている方は少なくありません。これまでの金融知識を活かしつつ、より成長性のあるIT・Web業界、特に「フィンテック(FinTech)」企業へのキャリアチェンジを検討する銀行員が増えています。
しかし、いざ転職を考えたとき、「IT未経験の自分が通用するのか」「年収が下がってしまうのではないか」といった懸念が浮かぶことでしょう。実際、銀行とスタートアップでは文化も求められるスキルも異なりますが、実は銀行員の実務経験はフィンテック企業から非常に高く評価されています。
この記事では、銀行員がフィンテック企業から歓迎される具体的な理由や、経験を活かせる狙い目の職種、そして転職後に後悔しないための心構えについて解説します。銀行でのキャリアを武器に、新しいステージへ挑戦するための戦略をお伝えします。
なぜ今、銀行員がフィンテック企業から求められるのか
「銀行員は潰しが利かない」という言葉を耳にすることがあるかもしれませんが、フィンテック業界においては全くの誤解です。むしろ、スタートアップ企業が喉から手が出るほど欲しい人材こそが、厳しい環境で鍛えられた銀行員なのです。ここでは、その主な理由を3つの観点から解説します。
金融規制への対応力とコンプライアンス意識
フィンテック企業にとって最大の壁となるのが、金融商品取引法や銀行法、資金決済法といった複雑な法規制です。どれほど優れた技術があっても、法律を遵守していなければサービスを継続することはできません。
銀行員であれば、日々の業務で「コンプライアンス(法令遵守)」や「本人確認(KYC)」、「疑わしい取引の届出」といった実務を当たり前のように行っているはずです。スタートアップ企業において、こうした規制対応の勘所を理解している人材は極めて貴重であり、即戦力として期待されます。
数字への強さと正確性
お金を扱うサービスにおいて、たった1円のミスも許されないという感覚は、金融業界特有のものです。IT業界はスピード重視の傾向がありますが、フィンテック領域に関しては「スピード」と同時に「正確性」が求められます。
銀行員が身につけている、数字に対する厳格な管理能力や、ミスを未然に防ぐためのチェック体制構築のノウハウは、急成長中のベンチャー企業が体制を整えるフェーズで大きな強みとなります。
対法人折衝力とビジネスマナー
BtoB(法人向け)のフィンテックサービスでは、導入先が大手企業や金融機関であるケースも少なくありません。その際、相手企業の決裁権者や役員クラスと対等に渡り合えるコミュニケーション能力が求められます。
銀行の法人営業で培った、堅い企業の経営層と信頼関係を築く力や、隙のないビジネスマナーは、若いメンバーが多いスタートアップの中で際立つ武器になります。相手の懐に入り込み、課題を引き出す提案力は、業界が変わっても普遍的な価値を持ちます。
フィンテック業界の主要領域と銀行員の親和性
一口に「フィンテック」と言っても、その領域は多岐にわたります。ご自身の経験がどの分野で最も輝くかを見極めるため、主要な4つの領域と銀行業務との親和性を解説します。
会計・経理・人事DX(SaaS)
マネーフォワードやfreeeに代表される、企業のバックオフィス業務を効率化するクラウドサービス(SaaS)の領域です。
銀行の融資担当として、多くの中小企業の決算書を見てきた経験がそのまま活かせます。「経理担当者がどのような業務で困っているか」「決算書をどう改善すれば融資が通りやすくなるか」といった視点は、プロダクトの提案や改善において非常に強力なインサイトとなります。
Software as a Serviceの略。パッケージソフトを購入するのではなく、インターネット経由で必要な機能を利用する形態のサービスです。月額課金型のビジネスモデルが一般的です。
決済(ペイメント)
PayPayや楽天ペイなどのQRコード決済、あるいはオンライン決済代行サービスなどが該当します。キャッシュレス化が進む日本において、依然として成長が続いている市場です。
この領域では、加盟店を開拓する営業力が求められます。銀行員時代に培った、地域のお店や企業のオーナーとの関係構築力や、フットワークの軽さが評価されます。また、クレジットカード会社や銀行との提携交渉においても、金融の仕組みを理解していることが強みになります。
資産運用(ロボアドバイザー・証券)
WealthNaviやFOLIOなどのロボアドバイザーや、スマホ証券などが含まれます。個人の資産形成をテクノロジーで支援する分野です。
銀行のリテール営業(個人営業)で投資信託や保険を販売していた経験が活きます。ただし、従来の「商品を売り込む」スタイルから、「使いやすいUI/UXで顧客の成功体験を作る」スタイルへの転換が求められます。顧客心理を理解している点は大きなアドバンテージです。
融資・クラウドファンディング・レンディング
AIを活用した融資審査や、クラウドファンディング、ソーシャルレンディングなどの領域です。
ここでは、銀行員の核心的スキルである「与信管理(審査)」の能力が直結します。「この企業にお金を貸して返ってくるか」を見極める目利き力や、債権回収の知識は、テクノロジーだけで完全に代替することは難しく、人間の経験と判断が重要視される場面が多くあります。
銀行員が狙うべき「職種」の具体例
「IT企業への転職」というと、プログラマーやエンジニアを想像するかもしれませんが、文系職種の銀行員が活躍できるポジションは多数存在します。営業職だけでなく、より専門性の高い職種へのキャリアパスも描けます。
カスタマーサクセス(CS)
単なる問い合わせ対応やクレーム処理ではなく、「顧客がサービスを使って成功(業績アップや業務効率化)できるよう能動的に支援する」役割です。
SaaS企業などでは非常に重要なポジションであり、銀行の法人営業で培った「顧客の課題解決に向けた提案力」がそのまま活かせます。顧客と長期的な関係を築き、アップセル(より上位のプランへの切り替え)を狙う動きは、リレーションシップバンキングの考え方に近いです。
インサイドセールス
見込み顧客に対して電話やメール、Web会議ツールを用いてアプローチし、商談の機会を創出する役割です。
効率的に多くの顧客と接点を持つことが求められるため、テレアポの経験や、短時間で相手の興味を惹きつけるトークスキルが役立ちます。外回りの営業とは異なり、データに基づいて科学的に営業活動を行う点が特徴です。
事業開発(BizDev)
Business Developmentの略で、新しいビジネスモデルの構築や、他社とのアライアンス(業務提携)を推進する職種です。
フィンテック企業が銀行と提携してAPI連携を行う際など、銀行内部の論理や意思決定プロセスを熟知している人材が不可欠となります。「銀行側の担当者をどう説得するか」という戦略立案において、元銀行員の知見が重宝されます。
コーポレート(法務・コンプライアンス・経営企画)
IPO(新規上場)を目指すフェーズの企業において、内部統制の強化は急務です。銀行員として身につけたコンプライアンス意識や、金融庁対応の経験がある人材は、管理部門の責任者候補として迎えられる可能性があります。
営業現場での経験だけでなく、本部での企画業務やリスク管理業務の経験がある方は、こちらのポジションでの需要が高い傾向にあります。
転職後に「ミスマッチ」を起こさないための心構え
フィンテック業界は魅力的ですが、銀行とは企業文化が大きく異なります。「思っていたのと違う」と早期離職しないために、あらかじめ認識しておくべきギャップと心構えをお伝えします。
「減点主義」から「加点主義」への転換
銀行では「ミスをしないこと」が何より重要視され、減点主義での評価が一般的ですが、スタートアップでは「失敗してもいいから挑戦すること」が評価されます。
慎重になりすぎて行動が遅れると、「スピード感がない」と判断されてしまいます。走りながら考える姿勢や、失敗を素早く修正して次の改善につなげる柔軟性が求められます。これまでの「正解を探す」癖をアンラーニング(学習棄却)する必要があります。
ITツールへの適応
Slack(チャット)、Zoom(Web会議)、Salesforce(顧客管理)、Notion(ドキュメント管理)など、業務では最新のITツールを駆使します。「使い方がわからないので教えてください」と待つのではなく、自分で触って覚える自走力が必須です。
また、ハンコ文化や紙の書類はほとんど存在しません。デジタル完結の業務フローにいち早く適応することが、信頼を得る第一歩です。
年収の変化と資産形成
メガバンクなど高年収の環境から転職する場合、初年度の提示年収は下がる可能性があります。しかし、成果に応じた昇給幅は大きく、実力次第で前職を超えることも十分に可能です。
また、スタートアップ企業では「ストックオプション(新株予約権)」が付与される場合があります。会社が上場(IPO)したりM&Aされたりした際に、大きなキャピタルゲインを得られる可能性がある点は、銀行員にはない夢のある報酬形態と言えます。
目先の月給だけでなく、ストックオプションの権利や、将来的な市場価値の向上(スキルアップ)を含めた「生涯賃金」や「資産形成」の観点で判断することをおすすめします。
主体性と自律性
マニュアルがきっちりと整備されている銀行とは異なり、スタートアップでは「マニュアルを作る」ところから仕事が始まります。「指示待ち」の姿勢では仕事が回ってきません。
カオスな状況を楽しみ、自分でルールを作っていくことにやりがいを感じられるかどうかが、適応の分かれ目となります。
銀行からフィンテックへ転職するための具体的ステップ
具体的に転職活動を進めるためのロードマップを紹介します。漫然と応募するのではなく、戦略的に準備を進めることが内定への近道です。
STEP 1: スキルの棚卸し
まずは職務経歴書の作成に向けて、自身の経験を言語化します。「融資担当をしていました」という事実だけでなく、「どのような規模の企業の、誰(社長・経理部長)に対し、どのような提案を行い、どう課題を解決したか」を具体的に書き出してください。
特に「泥臭い営業経験」や「厳しい目標数字を達成したプロセス」は、フィンテック企業でも高く評価されるポイントです。
STEP 2: ITリテラシーのアピール
IT未経験であっても、テクノロジーへの関心を示すことは重要です。「日頃からフィンテックサービスを利用している」「ITパスポートなどの資格を勉強中である」「ニュースアプリで業界動向を追っている」といったエピソードを用意し、新しいことを学ぶ意欲をアピールしましょう。
STEP 3: エージェント選定
フィンテック業界への転職を成功させるには、情報収集が命です。業界の動向に詳しい転職エージェントを味方につけましょう。目的別に複数のエージェントを併用するのが効果的です。
総合型エージェントの活用
まずは求人数の多い大手エージェントに登録し、幅広い選択肢を確保します。リクルートエージェントなどは、フィンテックベンチャーから大手金融機関のDX部門まで、膨大な求人データベースを持っています。
IT・Web業界特化型の活用
IT業界特有の職種やカルチャーに詳しいエージェントも必須です。Geekly(ギークリー)などはIT・Web・ゲーム業界に特化しており、各企業の社風や開発環境についても深い情報を持っています。
ハイクラス・金融専門型の活用
ご自身の年収レンジが高い場合や、専門性を活かしたい場合は、ハイクラス向けや専門特化型のエージェントが適しています。JACリクルートメントはハイクラス転職に強く、外資系フィンテック企業の求人も扱っています。
また、金融業界専門の「コトラ」なども、金融機関出身者のキャリアチェンジに強みを持っています。
STEP 4: 面接対策
面接では必ず「なぜ安定した銀行を辞めて、うちの会社なのか」と問われます。このとき、現職への不満(ネガティブ)ではなく、「銀行の経験を活かして、より本質的な課題解決をしたい」「テクノロジーの力で金融を便利にしたい」というポジティブな挑戦の文脈で語れるように準備しておきましょう。
まとめ
銀行員としての経験は、フィンテック業界において非常に強力な武器になります。「金融のプロ」としての信頼感と、「IT」という新しい武器を掛け合わせることで、あなたの市場価値は飛躍的に高まるでしょう。
もちろん、カルチャーの違いや新しいスキルの習得など、乗り越えるべき壁はあります。しかし、社会を変えるような革新的なサービスの最前線で働くやりがいは、他では得がたいものです。
まずは転職エージェントに相談し、どのような求人があるのか、自分の経験がどう評価されるのかを確認することから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、これからのキャリアを大きく開くきっかけになるはずです。