飲食店開業の流れ|手戻りを防ぐ準備の順番と資金調達・許可申請
この記事の要約
飲食店の開業準備は工程が多く、順番を変えると手戻りが発生します。とくに物件を先に契約してから保健所の施設基準を知ると、内装工事のやり直しが必要になることがあります。
この記事では、コンセプト設計から事業計画、資金調達、物件と内装、食品衛生責任者と営業許可の申請、オープンまでの段取りを時系列で整理します。営業許可や衛生管理の制度は公的機関の情報に基づいて解説します。
開業準備は順番で決まる

飲食店を開こうと決めたとき、最初に迷うのは順番です。物件を探すのが先か、資金の当てをつけるのが先か、資格を取るのが先か。調べるほど工程が増えていき、どこから手を付けるべきか分からなくなります。
順番を間違えると、時間と費用の損失が出ます。分かりやすいのが物件です。良い立地の物件を見つけて先に契約したものの、飲食店の営業許可には施設基準があるため、その物件では基準を満たせないことが後から分かる。すると内装工事の設計をやり直すか、最悪の場合は物件を手放すことになります。家賃は契約日から発生するので、この手戻りは時間と費用の両方を削ります。
つまり開業準備は「やることのリスト」ではなく「順番のある工程」として捉える必要があります。全体像は次のように整理できます。
| 段階 | やること | 並行して進めること |
|---|---|---|
| 1 | コンセプトを決める | 業態・客層・席数・営業時間の想定 |
| 2 | 事業計画書を作る | 売上と費用の見通し、資金計画 |
| 3 | 資金を調達する | 融資の相談、自己資金の確認 |
| 4 | 物件を探す | 保健所への事前相談、施設基準の確認 |
| 5 | 内装を設計・工事する | 厨房設備と什器の選定 |
| 6 | 資格と許可を取る | 食品衛生責任者の確保、営業許可の申請 |
| 7 | オープン準備 | 採用と教育、仕入先との取引開始、試作 |
この順番の要点は、段階4の物件探しに入る前に段階3までを終えておくことと、物件を見る時点ですでに施設基準を意識していることです。
なお開業は、雇われて働く場合と違って収入が保証されません。飲食店で働きながら資金と経験を蓄えて準備を進める人もいます。雇用されて働く選択肢を並べて検討したい場合は、以下の記事で接客業の転職の全体像を整理しています。
コンセプトと事業計画
最初に決めるのはコンセプトです。コンセプトが物件の条件、必要な設備、資金の規模をすべて規定するため、ここが曖昧だと後の工程で判断ができなくなります。
コンセプトを言葉にする
次の項目を、他人に説明できる言葉にしておきます。
- 業態(何を出す店か)
- 想定する客層と利用シーン
- 客単価の考え方
- 席数と回転の想定
- 営業時間と定休日
- 注文から提供までの時間
これらが決まると、物件に求める面積と立地、厨房に必要な設備、必要な人数が逆算できます。たとえば席数を多く取るなら面積と人員が必要になり、提供時間を短くするなら仕込みの動線と設備が変わります。逆にコンセプトが決まっていない状態で物件を見ると、面積が適切かどうかも判断できません。
事業計画書に落とす
コンセプトを数字と文章にしたものが事業計画書です。融資の相談時に提出を求められるため、資金調達の前に用意します。記載する項目は次のとおりです。
- 事業の内容とコンセプト
- 市場と競合の状況
- 売上の見通しと根拠
- 費用の見通し
- 必要な資金と調達の計画
- 返済の計画
売上の見通しは、客単価と席数、回転数、営業日数を掛けて組み立てます。根拠のない数字を並べても相談の場で説明できないので、なぜその客単価とその回転数になるのかを自分の言葉で言える状態にしておきます。
費用の内訳を把握する
必要な資金は店の規模と物件の状態で大きく変わるため、金額の相場を先に決めるより、何が費用項目になるかを漏れなく並べるほうが実務的です。初期費用と毎月の費用に分けて整理します。
- 初期にかかる費用
- 物件の取得費(保証金・礼金・仲介手数料)
- 内装工事費
- 厨房設備と什器
- 食器・備品
- 看板やメニューなどの制作費
- 許可申請の手数料
- 開業前の家賃(工事期間中も発生する)
- 毎月かかる費用
- 家賃
- 人件費
- 仕入れ(原価)
- 水道光熱費
- 通信費・決済手数料
- 借入の返済
見落としやすいのは工事期間中の家賃と、オープン前の仕入れです。物件の契約日から工事完了までの家賃は売上がない期間の支出になるため、この期間を短くできるかが資金計画に影響します。
資金調達の方法
資金は自己資金と借入の組み合わせで用意することになります。創業の段階では実績がないため、公的な融資制度が選択肢になります。
日本政策金融公庫には「新規開業・スタートアップ支援資金」という制度があります。公式サイトの記載によると、利用できるのは新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方で、資金の使いみちは新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(うち据置期間5年以内)とされています。担保・保証人については、希望を伺いながら相談する形と案内されています。
この限度額は制度上の上限であり、個別の融資額を意味するものではありません。実際にいくら借りられるかは審査によるため、事業計画書を用意した段階で窓口に相談し、自分の計画で何が説明として足りないかを聞くほうが早く進みます。据置期間が設定できる点は、売上が立ち上がるまでの返済負担を抑える設計に使えます。
補助金や助成金については、制度が年度ごとに新設・変更されます。開業のタイミングで使えるものがあるかは、国や自治体の窓口、商工会議所などで公募状況を確認してください。個別の制度名で探すより、開業予定地の自治体の産業振興担当に問い合わせるほうが取りこぼしが少なくなります。
物件探しと内装工事

物件は、保健所の施設基準を満たせるかを前提に選びます。厚生労働省の案内によると飲食店営業は営業許可が必要な業種で、営業許可には施設基準があります。基準を満たせない物件では、そもそも営業許可が下りません。
物件に求める条件を決める
コンセプトから逆算した条件を書き出します。立地と面積のほか、設備面の条件が重要になります。
- 立地(人の流れ、周辺の競合、駐車場の有無)
- 面積と間取り(客席と厨房の比率)
- 給排水の設備と排水の経路
- 電気とガスの容量
- 換気と排気の経路(ダクトを外に出せるか)
- 前面の視認性と看板の設置可否
電気やガスの容量、排気ダクトの経路は、後から変更するのに大きな費用がかかります。厨房機器を決める前でも、想定する調理方法から必要な容量の目安を業者に確認しておくと物件の判断がしやすくなります。
居抜きとスケルトンの違い
前の店舗の設備が残っている物件を居抜き、内装がない状態の物件をスケルトンと呼びます。居抜きは設備を引き継げるため工事の範囲を狭められますが、引き継ぐ設備がそのまま使えるとは限りません。
もしあなたが居抜き物件を検討しているなら、前の店舗の設備が保健所の施設基準を満たしているかを契約前に確認しておくと、内装工事のやり直しを避けられます。前の店舗が営業許可を取っていたとしても、許可は施設と営業者に対して出るものなので、自分の業態で同じ基準を満たせるかは別に確認が必要です。設備の老朽化や、清掃で落ちない汚れの状態も見ておきます。
スケルトンは設計の自由度が高い一方、工事の範囲が広くなり期間も費用も増えます。工事期間が延びればその分の家賃が積み上がるため、スケジュールと資金計画への影響が大きくなります。
契約前に確認すること
物件を契約する前に、次の点を確認します。
- 保健所に事前相談し、その物件で施設基準を満たせる見込みがあるか
- 建物の用途や用途地域の制限で飲食店の営業が可能か
- 原状回復の条件(退店時にどこまで戻す必要があるか)
- 家賃が発生する日と工事期間の重なり
- 消防や近隣との関係で制約がないか
保健所への事前相談は、図面ができてからでなくても受け付けてもらえる場合があります。物件の候補が絞れた段階で相談しておくと、契約後に基準を満たせないと分かる事態を防げます。
必要な資格と許可申請
飲食店の営業には保健所の営業許可が必要で、あわせて食品衛生責任者を置く必要があります。以下は東京都保健医療局「食品衛生の窓」の案内に基づく内容です。営業許可の運用は自治体によって異なるため、実際の手続きは管轄の保健所で確認してください。
食品衛生責任者を決める
東京都の案内によると、食品関係営業を行う場合は食品衛生責任者の設置が定められています(公衆衛生に与える影響が少ない営業を除く)。
次の資格を持つ人は、養成講習会を受けずに食品衛生責任者になれるとされています。
- 調理師
- 製菓衛生師
- 栄養士
- 管理栄養士
- 船舶料理士
- と畜場法に規定する衛生管理責任者・作業衛生責任者
- 食鳥処理衛生管理者
- 食品衛生管理者または食品衛生監視員の資格要件を満たす人
上記に該当しない場合は養成講習会を受講します。東京都の案内では、講習は計6時間程度で、科目は食品衛生学(2.5時間)、食品衛生法(3時間)、公衆衛生学(0.5時間)と確認試験という構成です。修了証書は全国標準化により、平成9年4月1日以降のものは全国どこでも有効とされています。
つまり調理師免許は開業の必須要件ではありません。調理師の資格があれば講習を受けずに食品衛生責任者になれるという位置づけで、資格がなくても講習を受ければ要件を満たせます。
営業許可の申請書類と期限
東京都の案内によると、一般営業施設の新規申請に必要なものは次のとおりです。
- 営業許可申請書
- 施設の構造及び設備を示す図面(2通)
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの
- 水質検査成績書(特定の水を使用する場合)
- 許可申請手数料
提出のタイミングについて、同案内には「書類は施設工事完成予定日の10日くらい前に保健所へ提出してください」と記載されています。この期限が段取りの起点になります。工事の完成日が決まったら、そこから逆算して申請の準備を始めることになります。
申請の経路は保健所の窓口だけではありません。厚生労働省の案内によると、「食品衛生申請等システム」で営業許可申請や営業届出を行うこともできます。
衛生管理の準備
東京都の案内によると、令和3年6月1日からHACCPに沿った衛生管理の実施が制度化されています。営業者は衛生管理計画を策定し、実行し、検証・改善を行うことが求められます。小規模な営業者等については、厚生労働省のホームページで公表されている手引書を参考に、簡略化したアプローチで取り組むことができるとされています。
自分の店がどの扱いになり、何をどこまで記録する必要があるかは、業態と規模によって変わります。ここは保健所への相談時にあわせて確認しておくのが確実です。東京都の案内では、申請または施設検査の際に衛生管理計画を確認するとされているため、申請の時点で用意しておく前提で準備します。
業態によって増える手続き
深夜に酒類を提供する場合や、店の規模によっては、保健所以外への届出が必要になる場合があります。菓子の製造や販売を行う場合も別の扱いになることがあります。
該当するかどうかは業態と規模で変わるため、保健所への事前相談の際に「自分の業態で他に必要な手続きがあるか」を確認し、必要に応じて消防署や警察署にも問い合わせてください。ここを開業直前に知ると間に合わない可能性があります。
オープンまでの段取り
工事の完成日を起点に、許可申請と採用・仕入れの準備を逆算して並べます。前述のとおり営業許可の書類は施設工事完成予定日の10日くらい前に提出する必要があるため、工事のスケジュールが確定した時点で申請の準備に入ります。
抜けやすいのは工事以外の準備です。従業員を採用する場合は募集から面接、採用後の教育に時間がかかります。仕入先との取引は口座開設や与信の確認が必要な場合があり、初回の発注までに日数を要します。レジや予約の仕組み、キャッシュレス決済の導入も申し込みから利用開始までに期間があります。
あわせて、開店前の試作と価格の最終決定も工程に入れておきます。原価を計算したうえでメニューの価格を決め、実際に厨房の設備で作って提供までの時間を測る。この工程を省くと、オープン後に提供が追いつかない状態になります。近隣への挨拶も、工事の音で迷惑をかけている場合はとくに効いてきます。
工事の遅れは起こり得るので、営業許可の申請と広告の告知は、工事完成の見込みが固まってから動かすほうが安全です。オープン日を先に告知して工事が延びると、告知のやり直しが必要になります。
よくある質問
Q. 開業に調理師免許は必要ですか?
必須ではありません。飲食店の営業に求められるのは営業許可と食品衛生責任者の設置です。東京都の案内では調理師の資格がある人は養成講習会を受けずに食品衛生責任者になれるとされており、資格がない場合も講習を受けることで要件を満たせます。自治体によって運用が異なる可能性があるため、管轄の保健所で確認してください。
Q. 営業許可はいつ申請すればよいですか?
東京都の案内では、書類は施設工事完成予定日の10日くらい前に保健所へ提出するよう案内されています。工事の完成日が決まった時点で申請の準備に入る計算になります。ただし申請の期限や手続きは自治体によって異なるため、事前相談の際に確認してください。
Q. 開業資金はどのくらい必要ですか?
店の規模と物件の状態で大きく変わるため、一律の金額は示せません。物件取得費、内装工事費、厨房設備、什器、工事期間中の家賃といった費用項目を洗い出して積み上げるほうが実態に近い見積もりになります。公的な融資制度としては、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額が7,200万円と示されていますが、これは制度上の上限で個別の融資額ではありません。
Q. 居抜き物件ならすぐ開業できますか?
設備が残っていても、その設備で施設基準を満たせるかの確認が必要です。前の店舗が営業許可を取っていたとしても、自分の業態で同じ基準を満たせるかは別の話になります。契約前に保健所へ相談し、設備の状態と基準の適合を確認してください。
まとめ
飲食店の開業は、コンセプトを決め、事業計画に落とし、資金を調達し、物件を探して工事をし、資格と許可を取るという順番で進みます。この順番を守ることが、手戻りを避ける確実な方法になります。
とくに効いてくるのは、物件を施設基準の前提で選ぶことです。飲食店営業は許可業種で、許可には施設基準があります。契約してから基準を満たせないと分かると、工事のやり直しや物件の変更が必要になり、その間も家賃は発生します。営業許可の書類は施設工事完成予定日の10日くらい前に提出するという期限があるため、工事のスケジュールから逆算して動くことになります。
まずは物件を本格的に探し始める前に、管轄の保健所へ事前相談してください。自分の業態でどの基準が関わるか、他にどんな手続きが必要かを先に把握しておけば、そのあとの物件選びと工事の判断が速くなります。